​制作工程

通常伝統的な手描き友禅の作品は20以上の工程を経て完成しますが、

こちらでは、ポイントとなる以下の主要な工程についてご説明していきます。

 

1.図案作り(ずあんづくり)

 まず最初は作品の全体的なデザインや配色を決める設計図作りの工程です。一般的にはデザイン、草稿と呼ばれる作業にあたるのかもしれませんが、これを私たちは「図案作り」と呼んでいます。制作する作品のテーマに沿ってモチーフになる花や模様をスケッチブックなどに描き、大まかな全体像を作り上げていきます。納得のいく図案ができればそれをもとに、原寸大の図案を制作していきます。
友禅染は段取りの仕事ともいわれ、この設計図がすべての土台になります。

手作業で行う仕事は後々やり直しがきかないため、技術的な矛盾が生じないか、理想と現実にギャップはないか、全体の工程や出来上がりを何度もイメージしながら慎重に作り上げていきます。
作品のテーマに沿ってモチーフになる花や模様をスケッチブックなどに描き、大まかな全体像を作り上げていきます。納得のいく図案ができればそれをもとに、原寸大の図案を制作していきます。

この図案が作品の未来を決めてしまうので、十分に時間と労力をかけ、入念な準備をします。 

 

原寸大の図案を制作しているところです。
飾ってきれいなだけでは駄目なので、あくまで着姿が美しく見えることを大切に描いていきます。
トルソー(マネキン)などを用いたり、実際に人に合わせてみて、良いバランスになるよう
何度も微調整を繰り返します。

 

 

2.青花写し(あおばなうつし)

 

生地の上にいきなり模様を描いていくことはできないので、出来上がった図案の上に生地を載せ、下からライトを当てて筆で写し取っていきます。写す際に青花液(あおばなえき)」という液体を用いるため、私たちは「青花写し(あおばなうつし)」と呼んでいます。青花液は水に溶ける性質があり、生地に青花で描かれた模様は出来上がった染め物から完全に消えて無くなります。写し方によっては、元々の図案の持つ意図や勢いというものを失わせてしまうことがあるため、伸びやかな筆致(ひっち)で生き生きと描く絵心も必要となります。

 

青花液の写真です。

青花液は露草の花の汁を和紙にしみ込ませ、そこに少量の水を加えた液体のことです。
水に溶けて流れ落ちる性質から、古くから絞りや友禅染の下絵に重宝されてきました。

 

3.糸目糊置き(いとめのりおき)

生地に模様を写し取ると、次は青花で描かれた模様の輪郭に沿って防染糊を置いていく糸目糊置き(いとめのりおき)の作業になります。

糸目糊置きとは、防染に使う米糊やゴム糊を、糸目筒(写真下)に流し込み、その金具の細い先から模様に沿って糊を置いていく防染方法です。

この作業によって、彩色時の色の混合を防ぐことができ、どのような細かな模様でも染め分けて表現することができます。糸目によって防染された部分は、仕上げの際に水で洗い流され友禅染の特徴でもある美しい糸目上の白い線としてあらわれます。

糸目筒は写真のように柿渋(かきしぶ)を引いた和紙を円錐状にし、その先に真鍮(しんちゅう)製の口金をつけたものになります。
この道具により1mmよりも細い線を引くことが可能になっています。
模様の輪郭をなんらかの方法で防染して彩色していく技術は、世界の染色にも見られるものですが、これほど繊細なものは世界にも例がありません。

防染に使うもち糊の写真です。もち糊とは糯粉(もちこ)と糠(ぬか)をこねて蒸した柔らかいお餅のようなものです。
これを糸目筒に入れてホイップクリームの要領で搾り出しながら糊を置いていきます。
最近ではもち糊とは別に昭和に入って開発されたゴム粉を元にしたゴム糊という粘度の高い糊もあり用途によって使い分けることが多くなっています。

 

4.地入れ(じいれ)

糸目糊置きが終わると、生地に「地入れ」を行います。
地入れとは後の地染め(引き染め)や友禅挿しの際に出やすい色むらやにじみを防ぐための準備作業で、地入れ液と呼ばれる薄めた糊を刷毛で生地にまんべんなく引いて(塗りこんで)いく工程です。
伸子針(しんしばり)と張り木(はりぎ)という道具を使い、生地を部屋いっぱいに張ります。上の写真は生地を張ったところですが、生地の下にアーチ状についているものが伸子針で生地の端に見えるのが張り木です。

塗布する地入れ液は、板状の乾燥布海苔(かんそうふのり)を煮て溶かしたものと水を混ぜ合わせて作ります。布海苔とは紅藻(こうそう)の一種で、煮ると糊状になることからフノリと呼ばれています。

張り木の写真です、内側に張りが打ち込んであり、生地を挟んで使用します。張り木は生地の幅に合わせて様々な広さのものがあります。

このように生地を挟んで使用します。張り木についている紐を部屋の両端の柱に結びつけて、緩みのないよう生地をピンと張ります。

これが伸子針(しんしばり)です、張り木で生地を張っただけでは、生地の端が少し垂れ下がってしまうので、伸子針を生地の端にかけて弛みをなくしていきます。

伸子針はこのような道具で、両端に針のついたよくしなる竹製の細い棒です。

このように伸子針の両端には針がついています。

これが地入れ液の元になる乾燥布海苔です。布海苔(ふのり)とは海藻の一種で、煮ると糊状になることから布海苔と呼ばれています。乾燥布海苔は最初このような板状になっています。

布海苔を必要な分だけ切り取り、水の入ったボールに入れ、火をかけ溶かします。

このように布海苔が溶けると、豆をすりつぶした豆汁(ごじる)と水を混ぜ合わせて地入れ液を作ります。

地入れ液ができると、刷毛を使って生地に刷り込んでいきます。
地入れ液の濃度は、生地の質、気候、地色の濃さや染料の種類によって微調整します。

 

5.友禅挿し(ゆうぜんさし)

 地入れが終わると、糸目糊で防染した模様の内側に刷毛で彩色していきます。これを友禅挿し(ゆうぜんさし)と言い、手描友禅染の象徴的な工程です。

友禅染では筆や刷毛を使って模様を彩色していくことを色を挿すと表現します。

色挿しは微妙な挿し加減、ぼかし加減で印象が大きく変わるため、同じ図案や色を用いても人によって出来映えが変わってきます。そのため、挿し友禅には技術力に加えて、高い感性も求められます。色挿しには染料を中心として、胡粉(ごふん)やを用います。

友禅挿しの作業は、染料を素早く乾燥させ色のにじみを抑えるため、生地の下から電熱器で熱をかけながら行います。この作業を行うための机を友禅机といい、写真のように机の中央を四角に切り取って電熱器を置けるように作られています。
ちなみに昭和の中頃までは電熱器の代わりに炭火を用いていたそうです。

 

友禅挿しに使う染料です、彩色には染料、胡粉(ごふん)、墨などを使用します。

 

胡粉(ごふん)の写真です。胡粉とは日本画などにも使われる白の顔料のことで牡蠣(かき)などの貝殻を精製して作られます。胡粉はこのような乳鉢のなかで練りながら使用します。胡粉を用いて白い花の花びらなどをぼかすことを胡粉ぼかしといい、友禅挿しを始めて一番最初に学ぶ最も基礎的な技法でもあります。

 

友禅挿しに使う小刷毛(こばけ)の写真です。彩色する場所に応じて、様々な幅の刷毛を使い分けます。刷毛の穂先がまっすぐに揃っているものを平刷毛(ひらばけ)、斜めになっているものを片刷毛(かたばけ)といい、1色で塗りきるところは平刷毛、ぼかし染めなどには片刷毛を使って行います。

色挿しは染料を生地にしっかりと浸透させることが大切で、裏から見てもしっかりと色が行き渡っている仕事は、色に奥行きや深みがあり美しさが違います。
彩色は微妙な手加減や、ぼかしなどの技術、染料の調合、配色のセンスなどによって印象が大きく変わります、そのため、思い通りに仕上げるには経験、技術に加えて、絵心や感性も求められます。

 

6.糊伏せ / ロウ伏せ (のりぶせ / ろうぶせ)

友禅挿しが終わると、後の「引き染め」で地色(背景色)を染める際、彩色した部分に地色が侵入するのを防ぐため、米糊ロウ(蝋)を使って模様の上を覆っていきます。この2度目の防染作業をロウで行う場合がロウ伏せ、糊で行う場合を糊伏せと言います。

先に地色を染めて、後に彩色するケースでは、この作業が「地入れ」のあとに行われます。単純に見える作業ですが、この作業が丁寧にできていなければ、後々地色が模様場に侵入して見栄えが悪くなるので、美しい仕上げのためには非常に丁寧な仕事が必要となる工程です。

 

今回はロウを使って伏せるので、ロウ伏せとなります。
写真のように専用のロウを鍋に入れ、火をかけて溶かして使用します。
ロウは粘度の高いものと、低いものを混ぜて使います、左が粘度の高いロウ、右が低いロウです。季節や天候によって、ロウの調合は微調整します、例えば乾燥しやすい冬などは、粘度が低いと割れてしまうため、粘度をあげます。

 

ロウが溶けて液体になったところです、ロウは熱すると液体になり、冷ますとまた個体に戻ります。

ロウが冷めないように鍋を電熱器にかけながら作業を進めます。

ロウは熱すると気化して煙になるので、常に換気扇を回しながらの作業になります。

 

模様の上を筆で伏せていく、比較的単純な作業ですが、この作業が丁寧にできていないと、後々地色が模様場を汚染して見栄えが悪くなったりトラブルの元になるので、美しい仕上げのためには丁寧な仕事を心掛けなければいけません。

 

ロウ伏せが終わったところです、写真で黄色く見えている部分がロウを伏せたところです。

ロウ伏せが終わると、背景の色を染めるために、再び張り木と伸子を使って部屋いっぱいに生地を張ります。

 

7.引き染め(ひきぞめ)

 ロウ伏せ/糊伏せが終わると、再び生地を作業場いっぱいに張り、引き染めの工程に入ります。「引き染め(ひきぞめ)」は生地の地色(背景色)を刷毛を使って染める工程です。

引き刷毛(ひきばけ)」という専用の刷毛をつかって、事前に調合した染料を生地に染め上げていきます。

引き染めには横幅の広い空間が必要で、専門の作業場などは16m程度の反物でも切ること無く一張りで染めることが出来るように作られています。その長さが足りない場合は、生地を何枚かに分割して染めることになります。

これが「引き刷毛」と言われる専用の刷毛で、上質の鹿の毛を使用したものです。良い刷毛ほど、水をたっぷり吸収してゆっくりと吐き出してくれます。この道具も職人が一つ一つ手作りで作っています。

濃い色や薄い色、赤や緑と、染める色や素材によって使う刷毛を変えるので、たくさんの種類の刷毛を普段から準備しています。

引き染めは一般的に右から左に向かって生地全体を染め上げていきますが、長ければ16m以上ある生地(振袖等のきもの)の全ての面を均質にムラなく染めるには熟練した技が必要で、高い技術力が求められます。

また、乾燥時の色むらを防ぐために、引き染めを行う空間は無風で一定の温度に保たれなくてはなりません、そのため真夏真冬でもエアコンや暖房器具を使うことは出来ません。

また絹の生地は、塩瀬(しおぜ)や縮緬(ちりめん)、紬など種類が様々で、染料の浸透する速度がそれぞれ違います、そのため状況に応じて刷毛の動かし方や速度など、技術を柔軟に対応させることも必要となります。

 

8.蒸し(むし)

蒸し」は蒸気の力を使って染料を生地に定着させる工程です。

引き染めが終わり、生地が乾燥すると、一見きれいに染め上がったように見えますが、このままでは染料は生地に定着しておらず、洗うと染料は流れ落ちてしまいます。

そのため染料を生地に定着させるために、90~100度近くの温度で40分〜1時間程度蒸します。

この工程を経ることで染料が繊維の芯まで完全に定着し、色が染まったということになります。またこの工程を経ることで染料の発色は、完全なものになり、より鮮度、瑞々しさが増します。

 

9.水元(みずもと)

水元」は、生地に残っている余分な染料や、今までの工程で生地に付着した糊等を水で洗い流す工程のことです。

たっぷりとした水量で丁寧に不純物を洗い落とすと、描かれた模様が鮮やかに浮かび上がってきます。

古くは「友禅流し」といい、鴨川や桂川でこの作業が行われている風景が京都の風物詩として知られていましたが、近年は環境面への配慮から工場内に人工的な川を作って水元をするようになっています。

ロウやゴム糊を用いた場合は水では洗い流せないため、専用の溶剤を用いて落とします、近年では水元の工場内にそういった設備が併設されています。

 
 

10.湯のし(ゆのし)

湯のし」は、一連の工程で縮んだり歪んだりした生地に蒸気をあてながらシワを伸ばし、長さや幅を揃えていく仕上げの工程です。

この作業により、縮んだ生地に柔らかさ、しなやかさが戻り、絹本来の風合いが甦ります。

古くは「手湯のし」と言って銅でできた「湯のし釜」(写真右)を使って湯のしをしていましたが、現在はテンターと呼ばれる幅だし機を使った「機械湯のし」がほとんどです。

ただ、絞り染めのように機械で均等に伸ばすことで特徴を損なうものや、規格外の生地等は今でも「手湯のし」で伸ばします。

湯のし釜を使った「手湯のし」はアイロンに比べ、ふっくらと仕上がるため、仕立て上がりの着物のしわ伸ばし等にもよく使います。

 

11.染め上がり(そめあがり)

蒸し、水元、湯のしが終わり、糊やロウが取れると糸目の線がくっきりと現れ、染め上げた絵模様が鮮やかに浮き上がってきます。

 

 

12.仕上げ / 金加工・刺繍(きんかこう・ししゅう)

仕上げ」は染色の加工を終えた生地に金箔や刺繍(ししゅう)を用いて、華やかにに装飾していく工程です。

金加工や刺繍はあくまで染めの美しさを引き立たせるものであるので、描かれた模様や全体の雰囲気を大切にしながら、品よく加工していきます。

金加工には「糸目箔(いとめはく)」や「振り金箔(ふりきんぱく)」「押し箔」など様々な技法があり、作品の表現に応じて使い分けます。

使用する金箔には純金箔と金箔に似せた真鍮箔(しんちゅうはく)がありますが、私たちは光沢の上品さ、美しさから純金箔を使用しています。(用途によっては真鍮箔を使うこともあります。)

 

13.仕立て / 仮絵羽(かりえば)

 仮絵羽(かりえば)」とはすべての加工が終わった一本の反物を、着物の形に仮縫いしていく工程です。仮絵羽をすることにより、全体の絵柄の様子がわかり、仕立てあがったときのイメージを伝えやすくなります。

仮絵羽は主に絵羽模様(えばもよう)と言われる振袖、色留袖、黒留袖、訪問着等に使われ、小紋や着尺の場合あまり仮絵羽をすることはありません。

絵羽模様」とはきもの全体が一枚の絵のように構成されているもので、縫い目で模様がとぎれることなくつながっている形式のことを言います。)

きものは実際の着用者様のサイズに合わせて、お仕立てするので、一般に着物の形で陳列されているもののほとんどは、この仮絵羽の状態ということになります。仮絵羽の作業はおもに専門の職人さんにお願いしています。

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